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光が消えて、視界には大きな桜の木が一本、沢山の花びらを舞わせて揺れていた。
そんな桜の木の下で、一人の少女が鼻歌なんか歌いながら、誰かを待っているようだった。
「しまったっ! 何もプレゼント持って来てない」
木の陰に隠れてそんな様子を眺めながら、私は思わずアキラの袖を引っ張った。
「ほんとだね、あっあの花でも渡したら?」
アキラの指差す先には黄色い花が何本か、桜に負けない位に自己主張する花があった。
それをいくつか引き抜き、ちょっとだけ刺繍の入った裾を千切って巻いて、即席の花束にしてみた。
何だか情けない見た目だな。
「気持ちがあれば大丈夫だよ」
「そうか?」
察してくれたのか、アキラはそう言って笑ってくれて、背中を押してくれた。
飛び出すように現れた私を見て、歌を歌っていた少女は驚いたように口を閉じてしまった。
「えっと……」
さっきまでの勢いはどこへ行ってしまったのだろうか、自分でもそう思ってしまう位に次の言葉が出なくて、ただじっと少女を見つめていたら、当の本人がいつも鏡越しにしか見れなかった満面の笑みを向けてくれた。
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