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さて、もう帰ろうと思った矢先、誰もいないはずの校門に誰かが立っていることに気が付く。そこにいたのは、風呂敷と灯りを持った小奇麗な女人だった。
白い肌に美しい髪をした彼女の顔を、兄弟は知っていた。この辺りの地主の娘である。二人がぎくりと身を強張らせると、呆れた顔をした娘は言った。
「こんな時間に何をしてらっしゃるの、子どもたち」
「桜の葉をとっているんだ」
口止めをする前に、弟があっさりと事を露見した。
「これはみんなで大切にしている桜の木よ、いたずらでむしるものではないわ」
「違うよ、塩漬けにして桜餅にするんだ。病気の母親が食べたいとうわごとに云っているから」
「桜餅の葉は山桜のものを使うのよ。観賞用のものでは美味しくないはずだわ」
エレガントな口調でこんなことを言われて、兄弟はひどく衝撃を受けた。震えた声で、健太は言った。
「それでは、この桜は食えんのか」
「食べれないこともないとは思うけれど、矢張り盗みはいけないわ」
その言葉を聞いたと同時に、叱られると思った兄弟は籠を持って一目散に逃げ出した。走って、走って、来た道を引き返す。
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