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息を切らして帰ってきた健太の成果を、家族は喜んで出迎えた。
ほんの少しだけ煮た小豆を潰した米でくるんだ餅に、塩で揉んだ桜の葉を添えて母親に差し出すと、うまい、うまいとお世辞に言っているのが見てとれたので、どれ自分もと食べた子供らはそのまずさに黙り込んだ。
おおよそ、感動できる味ではなかった。小学校から盗んできた桜の葉は筋が多くて硬く、舌で転がしても、歯で噛んでも旨くない。たまらなく情けなくなってきた健太と弟は、鼻をすすって床についた。
翌日になると、今度は先生から叱られるのではないかとびくびくしながら学校に行った。
呼び出されなければ、されないで、いつ鞭で叩かれるのではないかと恐れた。
一週間くらい過ぎたある日、地主の娘がお嫁に行くらしいという噂が聞こえてきた。
白無垢に着替えた彼女が歩いていくのを眺めて見送った健太が家に帰ると、自分の家の勝手口に重箱に入った赤い包みが置いてあるのを発見した。
慌てて家の囲炉裏の側で開くと、そこにはぎっしり詰まった桜餅が入っていた。
恐らく、それは花嫁から貧しい少年たちへの置き土産だったのだろう。
弟は歓声を上げて喜んでいたが、少年の心にはどこか羞恥と恥ずかしさのようなものがこみ上げてきて、たまらず涙を流してしまった。
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