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「父は再婚していたの。新しい奥さんは私を引き取りたがらなかったみたいで・・・。だけど、父は見捨てずに会いに来てくれた。でね、最近その奥さんと離婚したんだって。だから一緒に暮らしたいって、父の方から言って来たの。私、嬉しくてバレンタインにチョコを持って行ったんだけど・・・お菓子なんて作ったことないから失敗しちゃって・・・」
念願叶って父親と暮らせると思って張り切っていたのだろう。だけど、あの奇妙な洗剤入りチョコを作ってしまって父親に嫌われていると思われてしまったのだ。渚の性格から、情緒不安定になってこの世の終わりだと絶望したことは想像に難くなかった。
「だけど、父はめげずにまた連絡をくれたの。一緒に暮らすチャンスが欲しいって」
渚は俺の肩によりかかったまま、甘えるような視線で俺を見上げた?
「会ってくれる?お父さんに」
「勿論。紹介してくれるんだろ?」
「うん。でも・・・私、進藤君の名前も知らないな・・・」
そう言えば、名乗ってもいなければ知る機会もなかったかもしれない。
もしかしたら、渚はそういうことを気にして、どこか踏み込めないところがあったのかもしれない。
「聡志(さとし)。進藤聡志」
「私は中村渚」
付き合って1か月。毎日会っていたのに、俺たちはようやくお互いのフルネームを知った。そして多分、ようやくお互いに好き同士なんだと自覚できたのかもしれない。
冷静に考えると、これからきちんと渚と向き合って付き合うのは大変そうだ。
だけど、きっと俺はそれを受け入れて、渚との付き合いに満足できるんだろうと思う。
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