僕は彼女を受け入れる

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   2月の夜風は冷たいから、俺の部屋に連れて行って温かい紅茶を飲ませると、彼女は少しずつ落ち着いていった。 「この部屋は・・・リビングがあるのね。1LDK?私の部屋は1ルームだから、部屋によって間取りも違うのね」  グリーンの小さめのソファに座って紅茶をすすりながら、彼女は俺の部屋の中をキョロキョロと見まわした。 「ああ、やっぱりキミもここの住人だったんだな」 「・・・渚っていうの。名前で呼んで。キミとかおまえとか、名無しで呼ばれるの嫌いなんだ」  そう言った渚の瞳は寂しそうに見えた。 「そうなんだ。じゃあ、渚って呼ぶ。俺は進藤」  思わず苗字を名乗った。知り合ったばかりの女にいきなり名前を呼ばれるのは抵抗があったのだ。  それを察したのか、渚がさっきまでの泣き顔が嘘のように、小悪魔的にくすっと笑った。 「進藤君は彼女がいるのかな?」 「いや、ここ半年くらいはいない」 「ふうん、じゃあ私と付き合って」  これはまた唐突すぎて、俺は目が顔から飛び出すかと思うくらい驚いて絶句した。 「嫌だって言うなら、そこのベランダから飛び降りるから!さっきのフェンスよりも飛び越えやすいと思うし」 「それって、ただの脅迫じゃん。俺、渚のことなんて何も知らないんだから、好きなわけないじゃん。好きな奴としか付き合えない」  俺がうろたえていると、渚は急に立ち上がってベランダに続く窓ガラスを力いっぱい開け放った。 「さっきは怖気づいて1人じゃ死ねそうにないって思ったけど、今なら進藤君に見守られて死ねるような気がする」  その寂しそうな瞳に吸い込まれそうになっているうちに、渚が身を翻して裸足のままベランダへ出たから、俺は慌てて腕を掴んで止めた。 「分かった、付き合おう」 「・・・私を好きじゃないのに?」 「きっと好きになるから!」  目の前で死なれないために、ほぼ自棄になってそう口走っていた。  それでも渚は涙をためた目で、はじけるような笑顔を見せた。  それを見て、俺はようやくホッとすることが出来た。
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