1話 とある事件よりはじまり、はじまり

3/10
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
もっこりと膨らんだ布団の中から手が出てきて、けたたましく鳴り響く目覚まし時計を止めた。その手はそのまま時計を布団の中に引っ張り込んだ。 「七時…」 低い不機嫌な声が聞こえる。しばらくふくらみがもぞもぞ動いたかと思うと、勢いよく布団が蹴飛ばされた。布団は壁にぶつかり、ずり落ちる。壁には『二度寝厳禁!』と書かれた紙が貼ってあった。 布団の中で寝ていた彼女は、ぼさぼさの髪を軽く整えてから部屋を出て、階段を下りていく。彼女の行き先はリビング。リビングでは彼女の両親がおり、母は洗い物をしていて、父は新聞を読んでいた。 「あら、悠。おはよう」 「おはよう、お母さん。お父さん」 「ん」 彼女、悠は自分でご飯をよそい、椅子に座る。テーブルの前にあるテレビではニュースが流れていた。 『次のニュースです。昨日夕方、高校生の集団を襲った男が現行犯逮捕されました』 テレビが現場を映し出す。現場にはまだ生々しい血の跡が残っており、警官たちがつけたのであろう白い線で囲まれていた。 「あれ、ここって…」 「あなたの学校の近くじゃない?この現場」 映し出されている現場に悠は見覚えがあった。友達に付き合って何度か通った道だったのだ。 悠は、あまりに身近で起きたことに寒気がした。どこか他人事だったのだ。 「でも、犯人は捕まったみたいね。よかったわ」 「そうだな、しかし不審者には気を付けるんだぞ」 「はーい」 悠はご飯をかきこみ、登校準備を済ませるためリビングを出た。自分の部屋に制服などがおいてあるのだ。 十数分ほどして、制服姿の悠が玄関に立っていた。 「いってきまーす!!」 「いってらっしゃーい!!」 リビングのドアは開いていて、テレビのアナウンサーの声が廊下まで聞こえている。 『容疑者は【人を切り殺したい気持ちを抑えられなかった】、【あの人たちを殺すつもりはなかった】などと矛盾した供述をしており・・・・』 『余罪がないか捜査中・・・・』 しかし、ドアが閉まってそのニュースキャスターの言葉は悠に届くことはなかった。 玄関の門の標識には【神崎】と書かれていた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!