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「悠ちゃーん!おっはよー!!」
「由紀、おはよ・・・・ってあれ・・・」
悠は、友人である篠原由紀の腕に巻かれている包帯に首を傾げた。その視線に気づいたのか、由紀はへらっと笑って体を後ろに向けた。椅子に逆向きに座ったのだ。悠もかばんを置いて自分の席に座る。由紀の席は悠の席の前だった。
「昨日、変なおじさんにやられてさー!まじありえない!!」
「もしかして朝、テレビでやってたやつ?うちの学校だったんだ…」
(まさか由紀が被害にあっていたなんて……)
悠はなんと声をかければいいのか悩んだ。しかし、その悩んでいる間にも由紀はケラケラ笑いながら話を続けていく。
「一緒に帰ってた海人・・・五十嵐も少し斬られてさー。テニスできないほどの怪我じゃないのが不幸中の幸いだって言ってたよ」
「あぁ、隣のクラス五十嵐君、スポーツ推薦狙ってるって言ってたもんね」
悠は五十嵐とはあまり話したことがないが、由紀が五十嵐海人のことが好きなため、悠に良く頬を染めながら五十嵐のことを話すので、覚えていた。ただ、覚えているといっても推薦の話や大会で優勝したという話ぐらいだったが。
「ほかの人たちも幸い大きな怪我はしてなかったんだ。だけどね‥‥」
由紀が言いよどみ、表情を暗くする。
(明るくふるまっていてもやっぱりトラウマになっているのかもしれない)
「無理に話そうとしなくても・・・」
「ううん、言いたくて来たの、学校」
「えっ?」
「話さないで抱えてるとおかしくなりそうでさ・・・」
由紀の目は不安げに揺れており、ポツリポツリと言葉をこぼすように話し始めた。
「昨日の犯人、最初は普通・・・というかどこにでもいる人みたいで、私たち全く気にしてなかったの・・・」
由紀の頭に思い浮かぶのは昨日の帰り道、仲のいい友人たちと一緒に帰る姿。
「海人の隣に私がいて、ぶつかる少し前ぐらいで気づいたの。普通の表情で、普通に近づいてきて、それで・・・」
由紀が言葉を切り、じっと悠を見た。悠は思わずごくりとつばをのんだ。
二人の耳には周りの音が入らない。まるでそこだけ空間が切り取られてしまったように。
「その普通の表情のまま、まるで通りすがりに挨拶をするように」
「懐から出したナイフで斬りつけてきたの」
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