7人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
悠が図書室から戻ったとき、教室には誰もいなかった。夕日がさす中ぽつんと鞄だけが残っている。
由紀は友達と帰ったのかと思った悠は、鞄を持って教室から出ようとした。
そのときだった。
カタリと物音が悠の耳に届く。
勢いよく音の方へ振り向くとそこには由紀が立っていた。
「由紀?待っててくれたの?」
「・・・・・」
由紀は何も話さない。下を向いているのか表情を読み取ることも悠はできなかった。顔に影がかかっているのだ。
「・・・由紀?」
「・・・して」
「・・・・?」
ゆっくりとふらつくように由紀が悠に近づく。相変わらず表情はわからないままだ。悠はその異様さに思わず後ろに下がる。
「どうして?!」
「っ?!」
「なんでなんでなんで私を放っておいたの?声くらいかけてよ、友達でしょ?なのにどうして勝手に出ていくの?離れていくの?私が心配じゃないの?昨日あんなことがあったのに!」
由紀が頭を抱え、わめき始める。あまりに普通ではない。もしかしてトラウマで錯乱しているのかと思った悠はそっと由紀に近づいた。
「由紀?落ち着いて?ごめんね、本を返しに行ってたの」
「落ち着く、落ち着く・・・・」
「由紀の周りに友達がたくさんいたからその子たちと帰るのかなって思って、ごめんね?今度からちゃんと声かけるから」
「落ち着く、そう・・・落ち着くの」
由紀が頭を抱えるのをやめて悠を見た。由紀の表情は落ち着いていた。普通の表情だった。
(やっぱりトラウマになってたんだ)
悠は由紀に落ち着いた表情を見て安堵した。これからしばらく傍にいてあげよう。気を付けようと思い、先ほどのことがなかったかのように微笑む。
その微笑んだ悠の首に白いなにかが伸びた。
「―――えっ?」
最初のコメントを投稿しよう!