第1章 日常

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「やぁ、来たね」 いつもの場所に飛び込んだ時、私の息は弾んで弾んで、ドキドキと鼓動が止まらなくて、顔から背中から腕から足まで、汗がたくさん吹き出ていた。 そんなに走ってどうしたんだと聞かれるかと思ったけれど、その心配は必要なかったらしい。 やぁ来たねと、あたたかく私を迎えてくれた声。あたたかいのは声だけじゃないことを私は知っている。私だけじゃなく、彼を知っている人はみんな知っている。 「汗が冷えるといけない、タオル置いとくからね。それと、いつもの」 比良裏 了(ひらり りょう)さん。 私のいつもの場所のオーナー。 いつもの場所っていうのは碁会所。 「稚華は奥にいるけど… 苺ちゃんが来たことだし、すぐ出てくると思うよ」 じゃらじゃらじゃら じゃらじゃらじゃら 黒と白の丸い小石がぶつかる音が木霊する。 「…来たか、苺。打つぞ」 そう。ここは、碁を打つところ。
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