ある日

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……そういえば、ここで声がした気がする。 「わかった~」  子どもとも、老人とも取れない不思議な声。俺はそれに気を配ることなく、その場でうずくまって眠った。  そして今になる。いや、「何で?」って聞かれても、それは俺が知りたいくらいだ。  とはいえ、花の立場ってのも、なってみれば存外悪くない。  この公園は通勤路にもなっていて、朝になれば背広姿で歩く連中が散見出来る。そいつらを、文字通り高みの見物としゃれ込める訳だ。ははは、忙しそうだな。花の俺には関係ないがね。  何ら束縛のない命。ただ一輪の桜の花だ、一体誰が、何を強要できようか。  気分がいいので鼻歌でも歌おうか、と思っている矢先、隣の花が声を掛けてくる。 「おい、隣の。お前もそろそろ咲かなきゃまずい時期なんじゃないのか?」  なかなか斬新な呼びかけである。だが俺は、本能的に「確かにその通りだ」と受け取る。 しかし…… 「おい、どうした?」 「……どうやって咲くんだっけ?」  俺の返答に、表情こそ分からなかったが、隣の花は間違いなく呆れていた。 「お前それ、本気か?」  そんな事マジメに言われたって、こちとら蕾の初心者だ。咲いた事なんて一度もない訳で、教えられでもしなければ分かるはずなど無かった。 「いやぁ、すまんすまん。本当に分からないんだ」 「……はぁ……よくそれでこの木の花になろうと思ったな……」  溜息混じりに言う。お前は俺の上司か、とかちんと来たが、ここはぐっと堪えた。 「いいか、花を咲かせるには、付け根の辺りにグッと力を入れ、体の中の糖分を高め、水分を蕾の中に呼び込むんだ。難しい事を言えば、ホルモンを高める感じ」  何だか、難しいような簡単なような。とはいえ、付け根の辺りに力って……へその辺りに力を入れるイメージか? 「ふんっ!」  ……おぉ、何かが来る感じ。体の中の変化を感じる。  しかし隣の奴には不満だったらしい。 「おいおい、それマジでやってんのか? もっと力入れろよ!」  おいおい、マジか。これでも結構力入れてるんだぜ? 「ふんっっっ! ぬぉぉぉぉお!!」  かつて無い程へそ(?)に力を込める!すると確かにすごい勢いで水分が体の中に入ってくるのが分かった。
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