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そう、あいつさえ、あいつの存在さえ知らなければ
僕の心がこれほどまで揺さぶられることもなかったのでしょう。
この世に存在する樹木が杉だけなら、
何かと比較してこんな惨めな思いをすることもなかったんです。
けれども他と比較することで初めて
僕が僕であることを理解できるのだから、皮肉なものです。
それまでは、唯の何でもない存在だった僕が、
桜という絶対的な主役の存在を認めることによって
惨めで、嫌われ者で、嫉妬深い性格であることを知ったのです。
それでも、生まれ持った定めというものはどうにもできません。
桜は、主役として生まれようと思って生まれたわけではないでしょう。
生まれながらに、自分の存在を受け入れるだけです。
それって、とっても自然なことです。
僕だけが、僕であることを否定している。
それってとっても哀しいことです。
僕くらい、僕のことを好きじゃなきゃ、
誰が僕のことを好きでいてくれるんでしょう?
そう分かっていたって
僕への恨みが止められないのは
全部全部、あいつが皆に愛される桜だからです。
桜に嫉妬する僕は醜いでしょうか?
嫉妬するのはいけないことでしょうか?
桜なんか、桜なんか、…
けれども、僕は思うのです。
やっぱり、桜は美しいなと。
それを否定することはできないんです。
心から、美しいと思ってしまうんです。
きっと桜も、自分の美しさを疑ったりはしないでしょう。
なら、こんなのはどうですか?
僕が、僕であることを誇りに思う。
美しく気高い存在であると信じる。
そうすればきっと、僕を好きになってくれる存在がいると思うんです。
杉ですけど、僕は僕を好きになりたい。
杉ですけど、それでいいじゃないですか。
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