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僕は嫌われ者です。
生まれ持って『主役』になれる存在もあれば、
生まれ持って『敵役』になってしまう存在だっています。
主役以外のことは『脇役』とも表現できるのですが
僕の場合、誰かから恨みを買ってしまうことも多いので
『悪役』という方が妥当なのかな、と思います。
僕は杉です。
皆さんご存知かもしれませんが
『杉花粉』で有名な、杉です。
もう長いこと、色んな人間が僕の横を通り過ぎて行きましたけど、
大抵の人がマスクを付け、目を伏せるようにして去って行きます。
でも、それが当たり前の光景だと思っていたうちは
特に何とも思っていませんでした。
それまでの僕は、主役でも悪役でも脇役でもない、
ただの杉、それだけでした。
ところが、あいつを知ってから、僕の心は穏やかではなくなったのです。
そう、桜です。
桜は、まさに『主役』となるべく生まれてきた存在です。
一花咲かせた瞬間、多くの人間が心奪われ、その姿に見とれる様子を目にしてきました。
そうして、相対的に
「ああ、僕は嫌われているんだな」
と悟りました。
だって、桜を見た人間は
マスクを付けることもなく、その場に立ち止まり、
うっとりとした目で彼らの姿に見とれるのですから。
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