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「……熱は、大分下がったみたいだね。」
一人納得する啓祐に、妙な違和感を感じる。
確か部屋を抜け出し、雪の中に埋もれて。
伊織のいない事に、ひどく疲れてしまったんだ。
指一本動かす気にならなくて、絶望が体を支配して何も考えずに楽になりたいと諦めた。
そのあとの事はよく覚えていない。
誰かに何度も呼ばれた気はしたけど。
あれは……
あれは伊織の声だったか?
キョロキョロと辺りを見渡して思い出そうとすれば、途端に頭痛が襲いかかって思わず顔が歪む。
痛みに耐え兼ねて目を瞑れば、瞼の裏に陰が出来た。
たぶん傍にいた啓祐が、心配して覗き込んでいるに違いない。
大丈夫だと言葉にしたいのに、ひどい倦怠感に声を出す事も億劫だった。
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