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「廉ちゃん、頭痛いの?冷たいタオルあるから載せるね。」
そう言って額にタオルを載せようと近づいてきた時、布団から僅かに出ていた指先が啓祐の膝に触れた。
その瞬間に目が覚めた時に感じた妙な違和感が、深い意識の中にあったある事実とリンクした。
伊織の声だと思っていた優しい響き。
繋がれた優しい手の温もり。
霞む意識の中で、白く冷たい場所から救ってくれたのは伊織しかいないと錯覚していた。
伊織にしか感じた事のない切なくなるようなそれは、啓祐が与えてくれた温もり。
泣きたくなるほど優しい響きは、啓祐が囁いた哀しい言霊。
伊織はいない。
もう俺の傍にはいないんだ。
「伊織じゃ‥ない……」
口元が震えるのが判る。
伊織じゃない。
そう言葉にするのは傍にいない事を再確認するような気がしてひどく苦しかった。
だけど言葉に出さなければ、この呪縛から解けないような気がした。
大きく深呼吸をして目を見開けば、唇を噛み締めて怒りをあらわにした啓祐の姿が映った。
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