『若恋』 想い出の恋

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どこかで会ったことがある? 何かが記憶に引っ掛かった。 「…どこかでお会いしたような、」 「ああ、わたしと行動を共にすることも多いからね、きっと見かけたこともあると思う」 風が吹いた。 さらと前髪が揺れその眼差しを隠した。 虎王さんを見たことがあるような気がしたのはそのせい? 納得して笑いかけると虎王さんは顔を反らした。 「しばらくお世話になりますのでよろしくお願いいたします」 「……ああ、わかった」 挨拶を終えて、二階へ荷物を運ぼうとして手に取るとその手を止められた。 「俺が部屋に運ぶ」 「でも」 「これが俺の仕事だからな。あさがおさんのそばにいて護る。できる限りのことをする」 軽々と荷物を持ち上げて二階へと階段を昇ってく。 その後ろ姿を見送った。 「彼が気になるかい?」 「えっ?」 驚くわたしに三津谷おじさまは片目で合図をするとそのまま出ていった。 違う、と言えないまま立ち尽くしていた―――
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