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虎王さんの話した通り力だけではどうにもならないことがある。
「力だけ強くても大切なものは守れない」
「…もしかして、大切なものを失ったことがあるの?」
「………」
虎王さんの前髪の下から翳る瞳が見えた。
何も答えず本を閉じて立ち上がるとサイドボードへ歩き、沸かしたコーヒーをカップへと注いでひとつわたしに手渡した。
「昔のことだ」
言葉の中に、その瞳の中に昔とは言い切れないと滲んでる。
きっと大切すぎるものを失ったんだろう。
もう失うのが嫌でこうして朝方まで勉強してるんだ。
努力してる。
力だけ強くても守れないってわかったから。
「そんな表情するな。俺は諦めちゃいない。諦めたらそれで終わる。諦めないかぎり可能性はゼロじゃない」
素っ気ない態度の中に少しだけ優しさが見えた気がした。
苦く笑い諦めないって笑う。
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