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『競り』
表向きは美術品売買だが、裏では人には言えないモノを競売にかけている。
そして、今回、『初物』を目玉として出されるらしい。
「競りに参加する。奏と榊に連絡を」
俺の命を救ってくれた優しいりこへの恩返しだった。
奏と榊と龍神会の『競り』に正面から参加した。
そして、ラストの競りで、鳥籠に入れられたりこを見た時には胸が潰れるかと思った。
涙をこぼして震える姿に拳を握った。
「奏、必ず落とす!」
オークションで次々に上がる手を競り合い、高額で競り落とした。
救えてよかった。
救えなかったら俺は……
「助けてくれて、あ、ありがとうございました」
震える声だった。
そっと抱き寄せて腕の中に包み込む。
「なかなかにいい娘じゃないか。帯刀、おまえの目の届くところに置いてやれ」
様子を見ていた奏が笑った。
言われなくてもそうするさ。
友人の借金を背負うようなお人好しのりこを、このままにしてはおけない。
その後、俺が紹介した子供相手の仕事が合ったのか、りこは生き生きとして明るくなった。
「仕事は楽しいか?」
「うん、周りがみんないい人たちばかりで楽しいの。帯刀さん、いつも気に掛けてくれて本当にありがとう」
半年もすると、更にきれいになったりこに近づく男たちが現れた。
胸の中がモヤモヤする。
なんだか、面白くねえのはなんでだ?
「なあ、帯刀。あの子、おまえの女か?」
「いや、りこは俺の恩人なだけだが?」
「そうか、ならいいか。うちの一也があの子を気に入ってるようなんだ。おまえの承諾があれば見合せてやろうかと」
聞いた瞬間に頭が真っ白になった。
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