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そんなある日、柚木主任の前で私は眠ってしまった。物理の話が難しすぎて。 BARのカウンターで。 久しぶりに飲んだカクテルのせいかもしれない。 主任は私が起きるまで、隣でずっと待っててくれた。 私が目覚めるとすぐにトイレに行った。 眠っている私に誰かが変なことをしてはいけないから、離れられなかったって。 タクちゃん以外の人の前で眠ってしまうなんて、初めてだった。 あの頃、タクちゃんがいなくなった頃、どんなに飲んで吐いても決して眠ったりしなかったのに。 柚木主任は、忘れなくていいって言った。 無理に蓋をすることもないって。 あれから2年、ずっと側にいてくれている。 一緒にいる時に、ふとしたことで思い出が巡って泣いてしまっても、黙ってハンカチを貸してくれた。 私は少しずつ、生き方を思い出していたのかもしれない。 * 左手首の傷と、 あなたの優しい思い出を抱きしめたままで、 私、結婚するね。 ごめんね。許してくれるよね? きっと許してくれるよね?
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