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そんな俺たちのやり取りの間も、ミャーミャー小さな声が聞こえている。
とりあえず登る。なんとかなりそうだ。
猫のくせにどんくせーな。
首根っこを捕まえて一緒に降りた。低い位置の枝に置くと、自分で降りてどこかに走り去った。
薄暗い中に螢の光みたいに、白い尻尾の先をチラチラと揺らしながら。
『ありがとう。よかった、大野くん通ってくれて。』
優花は座ったまま嬉しそうに笑った。
「誰か呼ぶとかしろよ。ジャージ履いてる間に。」
俺の言葉に優花はまた笑った。
『大丈夫だと思ったんだよ。言ったでしょ、子供の頃は得意だったの、木登り。』
どんくせーやつ。
「じゃな、おつかれ。」
『うん。おつかれ。ありがと。』
優花は座ったまま笑って手を振った。
俺はその場を離れようしたけれど、彼女は座ったままだった。
「もしかして動けねーの?」
優花はまた笑った。
『捻挫したかもしれない。』
はあ?ドンクサイ猫のために、わざわざスカートの下にジャージ履いて、木に登って、落ちて捻挫してんのかよ。しかも助けられずに。
あの猫よりどんくせーな。
「そこ座っててどーすんだよ。」
優花は、俺から目を反らして言った。
『8時にお母さんのパート終わるから、電話して迎えにきてもらう。』
それまでここに座ってるのか?
俺は彼女に背中を向けてしゃがんだ。
「病院連れてってやるよ。」
優花はブンブン手を振った。
『いいよ、いいよ。木の枝折れるほど重いんだから。』
こいつのポイントはズレてる。そう思ったけど置いていくわけにいかんだろーが。
「いいよ。置いてけねえだろ。」
何回かそんなやりとりをして、ようやく優花は俺におぶさった。
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