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「人を呼ぶって発想はなかったのかよ。」
背中の彼女に言ったのは、ちょっと気を紛らわしたかったからだ。特に返事が欲しかったわけじゃない。
俺はとっても健全で、当たり前の男子高校生だから。
特別、意識してた女子でないとしても。
優花は、俺の本心なんかに気づくはずもない。
『誰か通らないかなって思ってたよ。でもよかったあ、今日委員会遅くなって。あの子、怖がってたから。』
いや、だからそこじゃねーだろ?
「誰か通っただろ?」
『大野くんが最初だった。委員会のメンバー、みんな自転車だし。』
確かに自転車通学者は裏門を使う。
『部活も終わってる時間だったから。重くない?』
ちょっとドキッとした。
さっきから彼女は気にしてるけど、優花はまったく重くなかった。背中の胸の膨らみは、小さいけど柔らかい。それで重さなんて感じないのかもしれない。
だから、そこ考えるなって、俺。
あのとき、俺はオシャベリさんだったな。
でも内容はほとんど覚えてません。
優花は何度も
『重くない?ごめんね。』
と耳元で言う。
それも・・かもしれない。
途中で黙ったのは、他のことを考えることにしたからだ。身体が正直になる前に。
ケガ人を病院に連れていくためにオブっているのに。練習で疲れてたはずなのに。
背中にあたる膨らみが柔らかすぎる。
不謹慎な俺の背中で、優花はしゃべり続けていた。
俺が黙ってからも、なんか一生懸命に。
背中から伝わる小さな膨らみからの動悸は覚えている。
あの時、もうちょっと病院が遠いとよかったなと思っていたんだ。
診察室から出てきた優花の足には、白いギブスが。
優花は右足を骨折していた。
数日休んで彼女は登校した。
廊下で見た優花は松葉杖がうまく使えずに、女子たちにからかわれながら笑っていた。そんな笑顔に、なぜかほっとしていた。
いつもの居残り練習の後、正門に向かう。
あの木の下に優花がいた。
「オマエ、今度は何してんだよ。」
ちょっと嬉しかった。
大丈夫かって言いたかった。
でも言えなかった。
『大野くん待ってたんだよ。』
優花は下手くそに松葉杖をついて近づいてきた。
『これ、お礼。一日早いけど。』
松葉杖をつきながら、斜めがけにした鞄から出した小さな箱には、リボンがついていた。
*
ーあれから何年経ったんだろう。
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