桜花の誓約

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絵梨奈には事情を話し、結局は優志から逃げたままの私は、土曜日の始発の電車に揺られて地元へと向かっている。 今一人暮らしをしているアパートがある都会風な景色は、少しずつ田んぼや木々が家と家の間に見え始めてきた。 田舎の田んぼの中の一軒家ともいえる実家は、隣の家までが徒歩数分という距離があるほどの、よく言えば自然の中にある家なのだ。 実家の最寄り駅に着いた私は家までの道のりを歩き、あの日約束をした公園の前で立ち止まる。 確か約束の日は明日だったと思うけど、なんとなく行ってみようという気持ちになり、あの桜の木のある場所へと歩き出す。 桜の木の間を通る遊歩道を歩きながら、思い出せない男の子の顔がどんなだっただろうかと考えた。 名前で呼び合っていた気がするのに、名前すら思い出せなくてため息をつく。 2年前にこの地を離れる時にもここに来て、あの桜に抱きつきながらここから離れた学校に通うことにしたんだと、語りかけるように話したことを思い出した。 ふと、目的の桜の木の下に人影があることに気付き立ち止まる。 動きたいのに動けない。 逃げたいのに逃げられない。 気付かれる前にこの場所から離れなければと思うのにどうしても身体は動かなかった。 「どう、して・・・?」
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