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「約束だよ。10年後の今日、同じ時間に、ここで会おう。その時に伝えたいことがあるんだ。」
「うん・・・。絶対だよ・・・。ずっと待ってるから・・・。」
行かないでって言えたらよかったのに、どうしても言えなくて、ただ止まらない涙が頬を伝い続けていく。
何歳か年上の優しいこの人とは何度かこの場所で会って、ひとりで泣いていた私の話し相手になってくれたことで仲良くなった。
いつの間にか兄のように優しいこの人を私は好きになっていたんだ。
私の初恋───10歳の春休み。
家から少しだけ離れた大きな公園の桜並木の下で、遠く離れた地に引っ越すからと再会の約束をする。
上から桜の花びらがふわりといくつも舞い降りてくることに気付いて、空を見上げると花吹雪のようにきれいで、私たちの再会を待っていると言われている気がした。
私を家まで送り届けてくれたその人は、そっと頭を撫でて「またね」と言い残し、行き先もわからないままに10年後の約束だけを胸に抱えて、去っていくその背を見送る。
心の中で「ずっと、待ってるから・・・」と何度も繰り返しながら、再び溢れる涙でぼやける視界を袖で拭っては見えなくなるまで見続けた。
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