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パグは思いっきり踏み込んで、影を真っ二つにした。ざぁっと影が消えていく。
あとに残ったのは、手のひらサイズの赤いチェックのノートだ。パグはおもむろにそれを食べた。お、おいしいのかな……?
「……さくらんぼっぽいな」
剣をさやにしまうと、パグはゆっくりとわたしのもとへと近づいてきた。
わたしはパグを見上げる。手が伸びてきた。
「よくがんばったな」
そう言ってパグはポンポンとわたしの頭を撫でてくれた。優しい手つきにわたしはほっぺたが熱くなる。心臓が早くなるのを感じた。
「パ、パグが助けてくれたから……」
うつむいてどうにかそれだけを言えた。パグの手が離れていって、ようやく心臓が落ち着いていった。
「ヒカリが心を強く持ってくれたおかげだよ。おまえの心には光の力があるんだな。優しい月のような光が」
「月の……光?」
パグは強くうなずいた。
「周り明るくなってるだろ? さっきまでヒカリの気持ちに引きずられて真っ暗だったけど、月の光の力であの影を追っぱらうことができたんだ」
明るくなった気がしたのは気のせいじゃなったんだ。
「わたし……みんなに違うよって言えなくて……」
「うん」
「アカネちゃんはそんな子じゃないのに……。ひどいことしちゃった……」
「うん」
「ほんとは大事な友達だったのに……」
「言えたじゃねぇか」
その言葉にわたしは顔を上げた。パグは優しくほほえんでいて、その笑顔にわたしはほっとした。
「俺に言えたんだ。アカネちゃんにも言えるだろ?」
胸の中に、さっきよりも強い光が灯ったようだった。パグにできるよって言われたら、本当にできそうな気がしてくる。これは月の光の力なのかな?
「わたし、がんばってくる」
パグはぐっと親指を立ててきた。
「ヒカリならできるさ。ほら、もう夜明けだ」
振り返ると、まばゆい光がわたしを飲み込もうとしていた。
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