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わたしはまた夢を見ていた。
逃げる、逃げる。なにから? わからないままひたすらに走る。
そして足がもつれた。私はぎゅっと目をつぶる。『それ』はもうすぐ後ろまで迫っている。
どうしてこんな夢ばかり見るんだ……。
怖い……怖い…………怖い!
「見ィツケタ」
声が、した。今までにはなかった夢の続きだ。
掴まると思った。でもなにも襲ってこない。わたしはそっと目を開けてみた。
座り込むわたしの前には大きな背中が見えた。黒いジャケットにストライプのパンツ、そして腰に剣を差した男の人が、わたしをかばうように立っていた。その人の頭には、なぜか犬耳のついたぼうしがかぶられている。暗かったはずのまわりが、いつの間にか少し明るくなっていた。
その人の前には大きな黒い影がいて、その人が手にした剣で影を止めていた。その影を見てわたしはひっと声を上げた。これがずっと私を追いかけていたものだ……。なんと言ったらいいのだろう。真っ黒くて大きくて、気味の悪い化け物だ。
「安心しろ。俺が来たからにはもう大丈夫だ」
その人がわたしに言っているんだと気づくまでに少しかかった。その間にその人は影を突き飛ばす。そして影に切りかかっていこうとした。
だけど剣が届く寸前に、影は飛び散って消えてしまった。
「ちっ、逃がしたか」
その人は呟いてからくるりとこっちを向いた。ずかずかと歩いてくる。キンっと剣をさやにしまう。
「悪い、大口叩いたくせに逃がしちまった。でももう大丈夫だから」
そしてしゃがみ込むわたしに視線を合わせてから、わたしの頭を撫でてそう言った。
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