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「だ、誰……?」
助けてくれて嬉しいけど、この人は誰なんだろう。その人はにっと笑った。
「俺は夢食い獏、小児科二班のパグだ」
わたしはきょとんとした。
「獏ってあの獏……? 夢を食べる……?」
「おう。お前の夢を食いに来た」
獏っていったら、鼻の長い黒い動物を、図鑑で見たことがある。夢を食べるっていいつたえがある生き物だって書いてあった。
「パグって……?」
パグっていったら犬のパグだろう。犬と獏はちがうと思うんだけど……。
「うっるさいなぁ! 名前だよ! 登録するときに間違えちまったんだよ!」
いきなり怒鳴られてわたしはまたびくっとした。パグさんは頭をかく。
「っとわりぃ。あんなモン見てまだビビってるだろうに……」
そう言ってわたしの頭をぽんぽん撫でた。その感触にわたしはなんだか安心してしまって、涙がぽろっと零れてしまった。
「おー泣け泣け。あんなんのに追っかけられて怖かったよな」
パグさんはそのまま撫で続ける。
ようやく涙が止まって、わたしは深呼吸をした。
「もう大丈夫か?」
「うん……。えっと、ありがとうございました」
わたしがぺこりと頭を下げると、パグさんはにっこり笑っていた。
「おまえ、名前は?」
「ヒカリ、です」
「そうか。ヒカリ、悪いがあいつは逃がしちまったから、多分また来ると思う」
また。悪夢は終わったわけじゃないのか。青ざめたわたしを見てパグさんはあわてて言った。
「そん時は俺を呼べ。どこにいても、絶対駆けつけるから」
「パグさん?」
「パグでいい」
「パグ」
「あぁ」
パグは満足そうににっと笑った。
「パグは、なんでこんなことしてくれるの?」
今までずっと一人だった。一人でずっと逃げていた。
「俺がバクだからだ。悪い夢から良い子を守るのが俺の役目だ」
その強い瞳は、しっかりとわたしを映していた。
「ほら、もう夜が明けるぞ」
振り返ると、白い光が零れ始めていた。パグはそっとわたしの背中を押す。
「またな」
そうして視界は白に染められた。
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