第一話 友情の悪夢

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「だ、誰……?」  助けてくれて嬉しいけど、この人は誰なんだろう。その人はにっと笑った。 「俺は夢食い獏、小児科二班のパグだ」  わたしはきょとんとした。 「獏ってあの獏……? 夢を食べる……?」 「おう。お前の夢を食いに来た」  獏っていったら、鼻の長い黒い動物を、図鑑で見たことがある。夢を食べるっていいつたえがある生き物だって書いてあった。 「パグって……?」  パグっていったら犬のパグだろう。犬と獏はちがうと思うんだけど……。 「うっるさいなぁ! 名前だよ! 登録するときに間違えちまったんだよ!」  いきなり怒鳴られてわたしはまたびくっとした。パグさんは頭をかく。 「っとわりぃ。あんなモン見てまだビビってるだろうに……」  そう言ってわたしの頭をぽんぽん撫でた。その感触にわたしはなんだか安心してしまって、涙がぽろっと零れてしまった。 「おー泣け泣け。あんなんのに追っかけられて怖かったよな」  パグさんはそのまま撫で続ける。  ようやく涙が止まって、わたしは深呼吸をした。 「もう大丈夫か?」 「うん……。えっと、ありがとうございました」  わたしがぺこりと頭を下げると、パグさんはにっこり笑っていた。 「おまえ、名前は?」 「ヒカリ、です」 「そうか。ヒカリ、悪いがあいつは逃がしちまったから、多分また来ると思う」  また。悪夢は終わったわけじゃないのか。青ざめたわたしを見てパグさんはあわてて言った。 「そん時は俺を呼べ。どこにいても、絶対駆けつけるから」 「パグさん?」 「パグでいい」 「パグ」 「あぁ」  パグは満足そうににっと笑った。 「パグは、なんでこんなことしてくれるの?」  今までずっと一人だった。一人でずっと逃げていた。 「俺がバクだからだ。悪い夢から良い子を守るのが俺の役目だ」  その強い瞳は、しっかりとわたしを映していた。 「ほら、もう夜が明けるぞ」  振り返ると、白い光が零れ始めていた。パグはそっとわたしの背中を押す。 「またな」  そうして視界は白に染められた。
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