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「おいおい泣くなよー」
わたしはごしごし目をこする。
「……泣いてないよ」
そのとき、あたりが急に暗くなってきた。
「勝負はこれからなんだからな」
パグはわたしの腕を引いて立ち上がった。
その視線の先で、黒い影が集まり始めていた。
「そこから動くなよ……!」
パグは剣を抜いて駆け出した。一直線に影へと走っていく。
「パグ!」
影の近くまで行くと、パグは強く地面を蹴った。高く飛び上がって影の頭上に剣を向ける。
「逃がさねぇ、ぜ!」
だけど影はパグの剣をぎりぎりのところでかわした。
パグは片足で着地すると、また強く踏み込んだ。影もそれに対戦しようとする。影の一部が細長くなったかと思うと、パグの剣を受け止めた。
「やるじゃねぇか」
パグはにやりと笑ってそう言った。そしてぐっと押し返す。剣を弾かれて一瞬隙ができた影を、パグは真っ二つにした。
「やった、の……?」
わたしが尋ねたけど、パグは黙ったまま影が消えるのを見ていた。
「いや、これは分身だ」
パグは剣を振って影を散らす。今度こそ、影は消えてしまった。
くるりとパグがわたしの方に振り向く。突然すぎて、わたしはびくっとしてしまった。
「ヒカリ、こいつは相当根が深そうだぞ。おまえいったい何やったんだ?」
射抜くような視線に、わたしはなにも答えることができなかった。
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