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で。
……此処は何処だ。
あの後藤堂が私の腕を取ってぐいぐいと別方向に引っ張り、あれよあれよと言う間にタクシーに乗せられて、ぽかんとしているうちに気持ちのいい日本庭園を臨む縁側に放置である。
いや、桜は綺麗だしお茶もお菓子も美味しいし、まったり出来て特に不満はないんだが。
ただ凄く、「私は他所様のお宅で一体何してるのだろう」と思うだけで。
しかも独りで。
藤堂は私を此処に座らせてから「ちょっと待ってて」とだけ告げて何処かへ行ってしまった。
お茶とお菓子は着物姿の美人なお姉さんが出してくれたが、その人も「ごゆっくり」と柔らかい笑みを残して去ってしまった。
日本庭園に和服美人。
絵になる人だった。
そう言えばあの人、透明人間に一切反応しなかったな。
プロか?
何のだよ。
…………。
……虚しい。
ふうと息を吐いて、それから、ふと。
思う。
――私はいつから、一人で過ごす時間を「虚しい」などと感じるようになったのだろうか。
透明病を発症してから、私は自然、他者と距離を取った。
「離れよう」と思ったわけではない。
誰かに「離れて」と言われたわけでもない。
ただ、けど。
発症前と同じく私の表情を辿ろうとして、束の間困惑する友達が。
彼女たちが私に話し掛けられて、振り返った先に顔がなかった時の一瞬の躊躇いが。
素手の私が物を拾って手渡した時の、反射的な怯えが。
なんとなく、私を、「私以外の人」から離した。
私から拒絶したり、あからさまに避けたりしたことはない。
だが、確かに、私は自分の意思で、他人と距離を取ったのだ。
そしてそれは、地元を離れた後の大学生活で、変わらないどころか強固になった。
だから、そう。
――独りには、慣れてるはずではなかったか。
静かな庭園に1人。
こんなシチュエーション、望むところだったはずでは、なかったか。
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