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「ちょ、とーめいさん?え、本当にどうしたの?大丈夫?」 「……、……っ、……し、しぬかと思った……」 こんなに穏やかで静かでいい雰囲気の他所様のお宅の庭で、色んな意味で大混乱になってしまうとは。 反省しよう。 お茶が肺に入って盛大に噎せると言う物理的な大混乱によって思考的な大混乱はとりあえず収まったので、まあ、いいか、と、思う。 ……思うしかない。 背中を擦ってくれる藤堂の手が触れた部分が妙に気になるとか、気のせいだ。 このくらいは、いつもの……。……いつも結構接触過多だな!主に藤堂が!今更だが! 内心どこが落ち着いたんだよと自分で自分にツッコミつつ、意図的に深く、長く息を吐く。 そうそう、落ち着くんだ、私。 不思議そうな表情で私を見ていた藤堂は、一先ず私が落ち着いたのを見て取って、背中から手を離す。 その瞬間、「あ」とか、何故か、頭を過った気がする。 何の「あ」だ、私。 「とーめいさんはこういう庭、一人で見てるの好きかなと思ったんだけど……そうでもなかった?」 ん、んん。 普段通り、普通に、普通の、声色、と。 「いや、その通り、……、……」 好きだぞ、と。 いい庭だな、と、それ以上の意味はないと、わかっていたのに。 透明病発症からこれまで、私の頭が空回ってる時でも平素の声色は崩れず返せるくらい、声色は使い慣れてるはずなのに。 はくり、と。 唇が、言葉を声にすることなくただ動いた。 「…………き、だよ、うん」 挙げ句の果てにう ら が え っ た。 もうダメだ。 今の私の心情がちょっと可笑しいことを、何をどうやっても誤魔化せる気がしない。 見えないけど視線を逸らして額を押さえ撃沈した私に何を思ったか、隣に座った藤堂は、普段通り私の左手を握る。 それから至極楽しそうな笑顔で、私の耳元――イヤリングを揺らしそうな位置まで唇を寄せて、小さく囁いた。 「今のって、庭のこと?それとも―― 俺のこと?」 私の心拍数と皮膚付近の毛細血管を試しているとしか思えない、酷い所業だった。 私は確かに鈍い方だが、それにしてもお前は察しが良すぎるだろう、藤堂! 「に、わに、決まってるだろ」 「うん、そうだね?」 「さくら、キレイだな」 「っ、ふふ。そうだね、とーめいさん」 「笑うな」 不貞腐れた声が出た。 もう今はまったく、心情と声色を取り繕える気がしない。
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