11. 突きつけられた現実

2/9
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
「あ、綾乃!おはよー。」 「おはよー!知穂。同じ社内なのに久しぶりだね。」 コフレの発表パーティが明後日に迫った朝。 前の部署の同僚と廊下で挨拶を交わす。 「綾乃、最近キラキラしてるね。秘書の仕事、上手くいってるのね。」 嬉しそうな顔で知穂が言う。秘書の仕事は孤独ではあるが、やり甲斐を感じている。 「高橋支社長がなんでも出来ちゃう方だから、置いていかれないようにするのに必死。上手くいってるならいいんだけど……。」 「俺は優秀な部下を持って幸せだよ。」 いきなり後ろから声がして、びっくりして振り返る。 「あ、高橋支社長、おはようございます!」 楽しそうな知穂の挨拶が響く。 「高橋支社長……おはようございます。」 恥ずかしくなって小さな声で挨拶をすると、爽やかな笑顔を返される。 私は知穂に控えめに手を振ってから、彼の後ろに付いて歩き出した。 支社長室に入り、仕事を始める。今日は来客も少ないため、明後日のパーティの最終確認を進めることにした。 来賓の資料を揃えたり、会場のセッティングや流れを確認する。 高橋支社長が関わる部分は全て、私も把握するように努めた。 「あ、綾乃ー!」 私は1人、食堂でランチを食べながら資料を読んでいた。顔を上げると、知穂と夏菜子がトレイを持ちながらこちらに歩いてくる。 「お疲れ様ー。ねぇ、一緒に食べようよ!」 久々に仲の良い同期に食堂で会えて、私は思わず嬉しくなった。 「うん!なかなか時間合わないもんね。あ、明日の資料?」 夏菜子が席に着きながら私の手元に目線を移す。 「うん。社外のイベントに今の立場で関わるのは初めてだから……なんだか緊張しちゃって。」 何度も見直した資料に手を触れて、私は苦笑いを浮かべた。 「相変わらず真面目ね、綾乃は。高橋支社長、あんまり厳しそうに見えないけど実は違うとか?」 知穂がおどけたように尋ねてきて、私は慌てて否定する。 「いやいやいや!全然。私が気付いてやるまで待ってて下さってる感じ……言われてからやるんじゃなくて、自分で気付きましょうってスタンスかな。」 「ふーん。楽しそうでいいなぁ。」 夏菜子がニヤニヤしながら相づちを打つのをみて、私は少しだけ違和感を覚えた。 だけどここは会社の食堂であることが頭を過って、問い詰めて話を聞くことはしなかった。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!