約束

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「朔也、少し落ち着いて座っていなさい」 代表室をうろうろと動きまわる俺を窘めるように、親父が言った。 でも、そうは言ったってどうしても落ち着かない。 久しぶりに湊に会える。 それだけでも胸が高鳴るのに、今回は失敗したら永遠の別れになるような危うい状況だったんだ。 数日間は連絡すら取ることができなかったから、湊の様子だってわからない。 さっきの電話では大丈夫だと言っていたけれど、あんなことがあったんだから平気なはずはない。 早く会って抱きしめたいという衝動が俺の体と心を支配していた。 代表室の窓から地下駐車場を出入りする車を見下ろしていると、黒塗りの車が一台入って来る。 「湊だ!」 「おい、朔也」 親父の声と冷ややかな視線を黙殺して、俺は部屋を飛び出した。 エレベーターホールへ着くと、ゆっくりと最上階に向かって進むランプが見える。 きっとこれに湊が乗っている。 じれったい気持ちで足踏みしながら、俺はドアの正面で到着を待った。 ……チン 乾いた音と同時にドアが開く。 まず目に飛び込んできたのは西園寺義臣で、その後ろに隠れるように湊が立っていた。 「やぁ、朔也君。久しぶりだね」 何度かパーティーの席で挨拶しているが、湊と特別な関係になった今となってはただの挨拶も何となく気まずく緊張する。 「ご無沙汰しております」 俺は逸る気持ちをぐっとこらえて、西園寺義臣に丁寧に頭を下げた。
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