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桜子は静かにカップを置いて、目をゆらゆら動かしている。
そしてテーブルの上に飾られた小さな花に視線を止めると、私を見ないまま言った。
「私は、慎之介さんとずっと一緒にいたいと…思ってる」
「…そう」
ずっと一緒に!?
それは結婚ということ?
冷静に頷きながら、実際の頭の中はパニックだ。
「やっぱり、私みたいな身分じゃ、お付き合いを続けるのは無理なのかな」
「…どうだろう」
短い返事しかしない私に、桜子はとても不安そうだ。
でも、とにかく、私も落ち着きたい。
そしてできるだけ桜子が傷つかない回答を…。
「湊はさ、お見合い結婚だっていつも言ってたじゃない?」
「私はね。西園寺家には私しか子供がいないし、父も一人っ子だしね」
桜子は視線を小さな花瓶の花から私に移すから、今度は私が俯いた。
「西園寺はずっと一族経営でやってきたワンマン企業だし、血族が継がないとどうしようもないのよ。まぁ、引きずりおろして乗っ取ってやろうという輩は多いけど」
悪戯交じりで微笑んだのに、桜子は一層悲しそうな顔をする。
「大丈夫よ!」
いけない。
何とか桜子を励ましたい一心で頭をフル回転させる。
「大丈夫。確か朝倉家は慎之介さん以外にも男の兄弟がいたはずだし、いざとなれば家督を別の人が継いで桜子とってことだって…」
「…それは、私が慎之介さんの足を引っ張るってことだよね」
「……」
確かにそういうことになる。
私が不用意に誰かに恋をしたりしないのは、相手がビジネスの邪魔になる可能性が高いからだ。
結婚は私にとって事業を有利に進めるための手段だし、それなりに良いタイミングで最善の相手と結婚できればと思っている。
他の人がどう言おうと、私にとって結婚はそんなものだ。
私は西園寺家を安定した状態で今後数十年導くことが自分自身の責任だと思っているし、それに邪魔なものには手を出すつもりはない。
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