乙女な彼と男前な彼女

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「今日はバレンタインだ。チョコを要求する」 「……一般的にバレンタインというものは、女性側から男性側へチョコを贈るものらしいんだけど」 「ナンセンス。海外では男女関係なく、大切な相手に感謝の気持ちを込めてプレゼントを贈る日とされている」  だからよこせと、彼女はのたまった。 「清和が作るお菓子は大変美味しい。私は以前より大いに期待していたのだ」 「はあ……僕は加奈さんからのチョコに大いに期待していたんだけども」  と言いながらも、チョコを用意しているという現実が悲しい。僕はいわゆる『オトメン』と呼ばれる存在らしく、男前な加奈さんといるといつも立場が逆転してしまう。それでもバレンタインくらい、加奈さんからもらえると期待していてもバチは当たらないはずだっ!! 「ふむ。実に美味しそうなトリュフチョコレートだ」  僕が大人しくチョコを差し出すと、加奈さんは目を輝かせてさっそく包みを開いた。無邪気に喜ぶ加奈さんを見ると、そんなに悪い気はしない。ここで妥協しちゃうから、いつも加奈さんに彼氏ポジションを取られちゃうんだろうけれど…… 「味は保証できないけど。味見してないし」 「なんだと? それはいけない」  まぁ、加奈さんが喜んでくれるなら、それでいっか……と思っていたら、フッと視界が陰った。視線を上げても、脳の画像処理が追い付かない。そうこうしている間にふにゅっと唇に熱が灯った。それとともに口の中に何かを押し込まれる。逃げようにも、後頭部を固定されているのか頭が動かない。そうこうしている間に口の中にチョコレートの味が広がり、唇から熱は離れていった。 「どうだ? 美味しいだろう?」  画像処理が追いついた景色の中で、加奈さんペロリと唇を舐めた。その唇に付いているのが溶けたチョコだと気付いた瞬間、口移しで押し込まれたチョコは変な音を立てながら喉に吸い込まれていく。 「っっっ……!! わ、分かんないよっ!!」 「何? ではもう1つ……」 「いいからっ!! か、加奈さん、いっぱい食べてっ!!」  煮え上がる僕を見て、加奈さんはもう1つトリュフを口に放り込みながらクスリと笑う。その妖艶さに、僕の背筋はゾクリと反応してしまった。 「ホワイトデーは、期待していたまえ」  やっぱり加奈さんは男前すぎる!!  そんな悲鳴とともに、僕の意識はフェードアウトしていった。
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