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「――さて」  来客用の椅子にゆったりと座り、足を組む真森からは圧倒的な威圧感が漂う。 「さきほどの話、詳しく聞かせてもらおうか」  鋭い眼光でキッと睨みつけられ、ジェリーは思わず震えあがった。 「たたた探偵には守秘義務というものがあってだな……っ!!」 「御託はいらんぞ、アホダヌキ」  彼女の所属は警視庁。ひとたび逆らえば、公務執行妨害でしょっ引かれても文句は言えない。 「うう……」  ジェリーは力無くうなだれると、ワーキングチェアに深く身体を沈め、ぽつりぽつりと語り出した。  突然事務所宛てに、要人警護の依頼があったこと。その依頼人兼警護対象が、政界の大物・大森政志だということ。  そして詳細な事情を詮索しないかわりに、法外といっていいほどの報酬を既に受け取っていること。 「……フム」  真森は顎に手をやると、真剣な顔つきでなにごとかを考え込んでいるようだ。 「わわわ、私は別に、何も悪いことしてなんかないんだからっ!! だって探偵だしっ!? 探偵だったら、依頼がきたら仕事するのが当然だしっ!?」  早口で言い訳がましい言葉を並べるジェリーを、真森が静かな口調で遮った。 「真森政志には、昔から黒い噂が絶えない。そのことは貴様も知らないわけじゃないだろう」  ちろりと横目で見られて、ジェリーはしどろもどろになりながら答える。 「そそそそりゃあ、政治家にそんな噂なんてつきものでしょ~? それに、上流階級の人間だけが甘い汁を吸うなんて、僕チャン解せないなぁ~、なんて……」 「問題は裏金だけではない。その金が『どこに流れているか』だ」  真森はそう言って、胸元から一枚の写真を取り出す。 「こ、これは……ッ!!」  ジェリーの前に突きつけられたそれには、一組の男女が映っていた。  黒いコートの襟を立て、顔を伏せている男は、細い銀縁の眼鏡をかけていた。他ならぬ本件の依頼人、大森本人である。  そして、その密会相手が問題だった。  恐らくは冬の寒空の下、鮮やかなブルーのコートとスカートを身にまとった、痩身の女性……。  なんとも都会的でハイセンスなオシャレですね、とは冗談でも言えなかった。少なくとも、これまで何人かの『全身を青色に包んだ奴ら』と接触してきたジェリーには、とても。
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