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「ふんふふ~ん♪」
調子が外れっぱなしの鼻歌は、もはや原曲がよくわからない。
しかし本人にとって、そんなことは大した問題ではなかった。だって今のこのご機嫌な気分では、歌い出すなという方が無理な話なのだ。
「少しは慎めよ」
肩の上でまどろんでいたはずのメロンが、不機嫌そうな声でたしなめる。
「そんなこと言ったってしょうがないでしょーっ! ワタシは今っ! ひっじょーーーに気分がイイんだからっ!!」
浮かれ切った様子を隠そうともせず、ジェリーはぶるぶるぶるっと芝居がかった仕草で身震いして見せた。
その度に響くガションガションという音が、また彼の満足感を増幅させる。
「ったく……せっかく割のいい仕事が入ったからって、その分出費が増えたら元も子もないだろう……」
メロンが半目になって睨み付けているのは、ジェリーが身にまとっている、防弾チョッキ、警棒、その他――ア○ソックもびっくりの『ザ・警備員コスチューム』だ。
「いやいやッ! 今回の任務は様々な危険を伴うッ! よって装備の充実は必要不可欠ッ! そうだろう、メロン隊長ッ!!」
「おれはいつから隊長になったんだ……」
ため息まじりにそう呟いたメロンも、心の中では「今のジェリーには何を言っても無駄だ」ということはわかっている。
わかっているのに言わざるをえないのは、このアホだぬきに任せておくと、いまだかつてないほどに豊富な現在の資金が、みるみるうちに底をついてしまうことを知っているからだ。
『それにしても……』
メロンは真剣な面持ちで考え込む。
『一体どうして政界の要人である大森氏が、しがない探偵であるジェリーに警護の依頼を……?』
先日かかってきた一本の電話により、ジェリー探偵事務所の状況は一変した。
電話の主である政治家の大森政志の依頼は、『三週間後に開催されるパーティーの席で、なんとしても大森を守り抜くこと』。
「無用な詮索をしなければ報酬は弾む」と言われて、このアホだぬきはすぐさまそれに飛びついた。おかげで、大森を『何から』守ればいいのかすら定かではない。
『この状況、何やら臭うな……』
大森ほどの人間だったら、何かの危険を感じた場合、警察を頼るのが常だろう。
そうしない――いや、そう『できない』なにがしかの理由が、大森サイドにあるのだとしたら……。
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