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それは三人にとって当たり前であり、日常の一場面であり、幸せの中の一ピースであり、まだまだ先も続いていく……
筈だった。
「危ない!!!」
誰かの叫び声が三人の耳に入った。
速度を出しすぎた自動車とトラックがぶつかり、激しい轟音が響かせる。
そしてそのうちの一つであるトラックが倒れてきた。
花咲博士はとっさにさくらに覆い被さろうとする。
しかし、それよりも早く反応したのがいちょうだった。
いちょうは娘の腕を引く。
さくらはいちょうの胸に抱かれ、目の前が真っ暗になった。
いちょうの目には倒れてくるトラックが鮮明に映る。
その横で花咲博士の目には、二人の姿が焼き付いていた。
二人を守ろうとする。
しかし身体は動かない。
倒れてくるトラックは、無情にも三人を纏めて下敷きにした。
「誰か! 救急車だ!」
また誰かの声が響く。
花咲博士の耳はその声を捉えていた。
彼は朦朧とする意識の中で二人の名を叫び続ける。
身動きが取れない中で身体中の骨が軋むのも気付かず、ただただ叫ぶ。
しかし、いちょうとさくらの耳はなにも捉えてはいなかった。
思考の流れも消えていた。
無。
絶望。
さっきまでそこにあった幸せも散った。
これからの明るい未来も、壮大な夢も、無限の可能性も、全てが散った。
三人の世界は暗闇に飲み込まれた。
トク……トクン……
そんな暗闇の中、小さな音が僅かに動く。
今、まさに散ろうというところで、見えざる手が乱暴に枝に括り付けたかのように。
枝の端に色も無い、見るも無残な花弁が残った。
残ってしまった……
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