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甘いモノが、好きって訳じゃない。洋菓子も和菓子もどちらかと言えば苦手だった。
有名企業に就職してとか、俺には向いていないと思っただけ。手に職をつけて、自分の店を経営出来たらいいと早い段階で決めていた。
普通でいい、小さくても構わない。最初はそんな気持ちでやってきた。今は天職だと思っているパティシエという俺こと塚本岳(つかもとがく)の仕事。
「la tiedeur」(ラ ティエドゥル)は俺の師匠である、辻田晴樹(つじたはるき)の店。辻田が作るスィーツの味に衝撃を受け「バイトでも、ボランティアでもいいのでここで働きたい」とダメ元で店に押し掛けたのがきっかけだった。
今思えば、なんて馬鹿な事をしたんだって恥ずかしくなる。辻田はその時の事を話しのネタにして、俺をイジり「勘弁して下さい」と困った顔をすると、辻田は楽しそうに笑う。そんな風に接してくれる辻田は、俺にとって親父のような存在でもある。
実際、俺には父親がいない。物心ついた頃にはいなかった。それが淋しいと思った記憶もない。いないのが当たり前だったからだ。
本当、俺の師匠が辻田さんで良かったって思ってる……
俺の人生で、後にも先にもあんな醜態を晒してから十年経がとうとしていた。
辻田から「「la tiedeur 」二号店をオープンしょうと思っいる。君に店長を任せたい」と俺は二つ返事で引き受けた。
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