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カーニバルのカウンターバーで、アカリはファントムを待った。黒いエプロンを仕込んで行った日以来、ファントムとは会えていなかった。
避けられているのか、それともタイミングが悪いだけか。アカリが毎週来ることは伝えていただけに、会えないのはファントムの意思のように思えた。
明け方近くになり客がポツポツと帰り始めた頃、男性用のロッカールームから白いマスクが現れた。彼はアカリのバタフライマスクに向かって、真っ直ぐ歩いてくる。そしてアカリがスツールから立ち上がるのを認めると、無言でプレイルームへ向かった。
アカリは黙ってその後についていった。いつものようにエスコートしてくれないファントムに不安を覚える。彼は個室に入っても、アカリに触れようとはしなかった。
「里見さんだよね。僕のこと、もう気づいてるんだろ」
マスクの中のくぐもった声が言う。アカリが身動ぎもせず黙っていると、ファントムは徐ろにマスクを外した。それは、一度は想像したことのある、高遠の顔だった。
「君も外してくれないかな。顔を見て話がしたいんだ」
だがアカリは首を横に振った。
「嫌、こんな顔、見られたくない。体だけでいいじゃないですか。体だけなら褒めてくれるでしょ」
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