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そこまで書いたところで、急に風が強く吹いた。
僕は紙が飛ばされないように慌てて抑える。
そういえば窓を開けっぱなしにしてたんだ。
ふと外を見たら、ぱっと花びらが散る瞬間だった。
嗚呼、鮮やかな桃色の景色があっという間に消えていく。
感傷的な気分になりながら桜を眺めていると、その中に見慣れた姿を見つけた。
「…わぁ…綺麗!」
いつの間に来たのか、庭の桜の舞う中で君が嬉しそうに回っている。
両手一杯に桜吹雪を受け止めながら。
僕の元へ走ってくる、愛しい君。
きっとまた何か思いついたんだろうな。
そんな顔してる。
「あの、一緒にお花見しませんか?」
「……随分唐突だね。お花見ってここで?」
「はい!って言っても…本当に桜を見るだけですが…」
えへへ、と笑う君のその姿が、僕はたまらなく可愛いと思う。
少し悩み、僕は笑う。
「……いいよ。君がそうしたいなら」
ぱあっと花が咲いたような笑顔を浮かべ、君は喜んで僕の腕を引く。
君が桜の精でも、これが長い夢でも何だっていい。
君が僕の傍で笑っていてくれるなら、僕は幸せだ。
あぁ、そういえば手紙がまだ途中だな。
続きは帰ったら書こうか。
最後はなんて書こうか。
『いつか………』
僕は桜を見る。
目を閉じて、その瞬間の事を夢想する。
『──────いつか僕がいなくなる時も、桜の中で君が、笑って見送ってくれたらいいなぁ』
僕はそっと筆を置いた。
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