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お皿二枚を並べ、半分に切ったオムレツを乗せて、その上にケチャップを掛ける。
まるで猫が顔を洗ってるみたいな仕草で手の甲でまぶたを擦ってるサトミ。よたよたと歩いてきてキッチンの中へ入ってきた。俺の直ぐそばまで来ると、半分寝てんじゃないかと思うくらい無表情で顔を上げる。
「おはよぉ」
俺はもう一度言って、サトミのおでこにチュッとキスする。
「顔洗っておいで、もう食べれるよ」
サトミは何も言わないで、頷いたつもりなのか、俺の肩へ重力に任せるように頭を振り落としゴンと頭突きをして、またよたよたとキッチンを出ていった。
「ふふ」
お椀を二つ出し、インスタントの味噌汁を入れてポットのお湯で溶く。昨夜仕掛けておいた電子ジャーを開け、ほかほかのご飯をお茶碗に装った。それから冷蔵庫を開けて佃煮の海苔を出す。
顔を洗って目が覚めたサトミが帰って来た。今度はちゃんと目が開いてる。
「出来たからテーブルに運んで」
「はーい」
カウンターに出した朝食をテーブルへとバケツリレーみたいに次々に並べてく。全部並べ終えるとサトミはいつもの自分の席に座ってテレビを点ける。
サトミは音があるのを好むらしい。別にニュースが観たいわけでもない。目的があるわけでもなく、取り敢えず点ける。BGM代わりみたいなもの。
「いただきまーす」
俺も座って手を合わせる。
目の前に当たり前のように居るサトミを見て、不思議な感覚に陥る。
サトミはもそもそと口を動かしながら、最後のオムレツのひとかけらをお箸で摘みこっちの皿へ持ってきた。俺の皿に残ったケチャップを拭い取ると、そのままUターンし、パクリと自分の口の中に入れてしまう。
不思議だな。
いつの間にこうなったんだろう。
これは当たり前じゃない。凄く尊い時間なんだ。って思った。だから当たり前なんて思っちゃダメだって。
「サトミ」
「はぃ?」
「大好きだよ」
唐突な俺に、サトミはふわりと優しく笑った。
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