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翌朝、サトミのアパートに着いたのは朝の十時だった。
初めて訪ねるアパート。
もしかして、他の誰かといるのかもしれない。ちょっと考えてそれは無いと思った。サトミは誰も入れないから。自分のテリトリーに。
でももう、そんなのも関係ないや。
携帯を取り出し、かじかむ指でサトミの番号を検索して押した。
「う~……さみぃ」
その場で足踏みする。
トゥルルル……繰り返す呼び出し音。出ない。
週末だから、他のやつのところに泊まってるのかな。気持ちが萎えそうになった時、コール音が止まった。
『はい』
「サトミ?」
『……なんで?』
しばらくの間の後に聞こえた、電話越しのサトミの声はボソボソと低く元気がない。
寝起きだからか、風邪でも引いたのかな?
「あんね、やっぱりサトミが好きなんだ。で、お土産も買った! 今、サトミのアパートの前にいる! 開けてくれる?」
俺は思い切って言った。
『お土産って……開けないから、帰って下さい』
「帰んない」
返ってきた声は呆れてるようで、淡々と冷たかったけど、負けるもんか。
「ちゃんとサトミに好かれてた。分かってる。だからもう聞かない」
『そういうことじゃないから』
「じゃあ、ここで大きな声で言うよ。サトミが大好きだって。一緒に暮らそうって。そしたら信じてくれる?」
『近所迷惑だからやめて下さい』
俺は携帯をコートのポケットへ落とすと、スーッと鼻から息を思い切り吸い込んだ。アパートの南側へヅカヅカ回り込む。どの窓がサトミの部屋か分からないから、思いっきり大きな声で言わなきゃ。
「サーーーー」
一音発した瞬間、二階の五部屋ある左から二個目のベランダが開いて人影がバッと現れた。サトミだ。まだ携帯を耳に当ててる。
「やめてってばっ」
「あは。もう携帯切りなよ」
憮然とした表情のサトミを見上げ、思いっきり言った。
「愛してるよ! サトミっ!」
サトミは目を丸くして、「しーっ!」と指を口の前に立てた。
「一緒に暮らそうっ!」
サトミの部屋の隣から、サトミと同じくらいの年の男がヌッと顔を出した。ガラガラと窓を開けて寒そうに首をすくめる。
「朝からうるせーよ」
サトミはサッと壁に隠れ、手だけにゅっと出し、「おいでおいで」と手招きし部屋の方を指さす。
やった!
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