約束

6/9
303人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「これを、サトミとふたりで使いたいなって思って。一緒にコタツに入って、一緒に熱いお茶を飲むの」  サトミはジッと湯呑を見つめたまま、俺の言葉を黙って聞いていた。 「んで、春になったら二人でお花見行って、夏になったら、二人でビードロのグラスを買いに行こう。それから秋には紅葉を見て、冬は温泉行こうよ」  サトミの目が一瞬優しくなった。でも直ぐに不安気に揺れて虚ろになっていく。 「一個づつお茶碗を買い足していこう。割れても大丈夫。また一緒に買いにいけばいいから」  サトミの眉毛が困ったように下がった。  しょんぼりしているのは困っているからだろうか。  どうやって断ったらいいかと考えているのかもしれない。それでも俺は黙っているサトミへ話し続けた。 「この部屋もシンプルで素敵だけど、俺ん家にサトミが引越してきてくれたら嬉しいなって思う」 「……なにごとにも終わりはくるんです。ずっとなんて続かない」  サトミがやっと口を開くと、イヤに暗い口調で言った。 「だから?」 「買いに行っても割れる。割れなくてもくすむ。繰り返したところで永遠になんて無理だし」 「難しいことは言えないけど、わからない先のことで悩むなんてバカだと思うぞ」  キッパリ言うと、サトミはまた拗ねたような表情になった。 「悩んでなんてないです。悩まないようにしたんだから」 「嘘つき。考えてたくせに」 「考えちゃうから、手放した。これ以上考えないように」  ように、と言ったサトミの口へチュッとキスして、サトミのおでこにコツンとおでこをぶつけた。 「ほら、好きじゃん。だから逃げだしたんだよね?」  俺はサトミをギュッと抱きしめると、もう二度と離さないという気持ちでギュウギュウ腕を締めた。足も使った。両手両足でサトミをがんじがらめにして、ゴリゴリとおでこにおでこを擦りつける。 「きついし、イタイ」  サトミは凄く困った表情でボソッと文句を言った。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!