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「これを、サトミとふたりで使いたいなって思って。一緒にコタツに入って、一緒に熱いお茶を飲むの」
サトミはジッと湯呑を見つめたまま、俺の言葉を黙って聞いていた。
「んで、春になったら二人でお花見行って、夏になったら、二人でビードロのグラスを買いに行こう。それから秋には紅葉を見て、冬は温泉行こうよ」
サトミの目が一瞬優しくなった。でも直ぐに不安気に揺れて虚ろになっていく。
「一個づつお茶碗を買い足していこう。割れても大丈夫。また一緒に買いにいけばいいから」
サトミの眉毛が困ったように下がった。
しょんぼりしているのは困っているからだろうか。
どうやって断ったらいいかと考えているのかもしれない。それでも俺は黙っているサトミへ話し続けた。
「この部屋もシンプルで素敵だけど、俺ん家にサトミが引越してきてくれたら嬉しいなって思う」
「……なにごとにも終わりはくるんです。ずっとなんて続かない」
サトミがやっと口を開くと、イヤに暗い口調で言った。
「だから?」
「買いに行っても割れる。割れなくてもくすむ。繰り返したところで永遠になんて無理だし」
「難しいことは言えないけど、わからない先のことで悩むなんてバカだと思うぞ」
キッパリ言うと、サトミはまた拗ねたような表情になった。
「悩んでなんてないです。悩まないようにしたんだから」
「嘘つき。考えてたくせに」
「考えちゃうから、手放した。これ以上考えないように」
ように、と言ったサトミの口へチュッとキスして、サトミのおでこにコツンとおでこをぶつけた。
「ほら、好きじゃん。だから逃げだしたんだよね?」
俺はサトミをギュッと抱きしめると、もう二度と離さないという気持ちでギュウギュウ腕を締めた。足も使った。両手両足でサトミをがんじがらめにして、ゴリゴリとおでこにおでこを擦りつける。
「きついし、イタイ」
サトミは凄く困った表情でボソッと文句を言った。
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