問題のない後輩

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 可愛いと思っていた後輩。  問題のない後輩だった。  なのにある日、見てしまったんだ。同僚と飲みに行った帰り、薄暗い路地と建物の影で、里見君が男とキスしているのを。  見て見ぬふりすればいいのに、俺は呆気に取られて立ち止まってしまった。  相手の男はラフな格好した大柄の男で、壁を背にした里見君を覆うように立っていた。だから、一瞬絡まれてるのかと思った。  でも里見君の手が相手の男の頬を包み、彼の方から顎を持ち上げていたのに気づいてしまった。 「……あ……」  顔を下ろした里見君が不意にこちらを向く。バッチリ目が合った。里見君は、焦る様子もなく無表情で俺を見ている。  俺は俺で蛇に睨まれたカエル状態でその場に立ち尽くしていた。  こ、こういう時、どうしたらいいんだろう。「奇遇だね」と話しかけるのも違う。しっかり見てしまった視線を外し、なに食わぬ顔で立ち去ればいいのか。  男がこっちを見ている里見君の首に顔を埋め、スーツの裾から手を差し込み上着をたくし上げる。上着の中でごそごそ動く手。裾から乱れた白いシャツがチラリと見えた。心臓が縮み上がる。次に目撃する場面は、直に触れられる肌――。その温もりすら容易に想像できた。立ち去った方がいいと頭では分かっているのに、俺の体は硬直し一ミリも動かなかった。  上着の中に潜り込んでいる手を里見君が阻止した。何か話している様子。  男は里見君から手を離し、残念そうに自分の襟足を撫でチラッとこっちを向いた。でも、そのままおとなしく暗い路地に消えて行った。
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