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道路脇の崖を攀(よ)じ登って高台に立ったフュンフは、闇が朝の光に追われてどんどん森の奥に退がって行くのを見た。
「リーナ」
振り返ってリーナを呼ぶと、今まで散々苦労して上がってきた崖をリーナは容易く駆け上がって来た。息を切らせてさえいない。
「うわ、身軽」
「フュンみたいに鎧着てないからっ」
鎧と言ってもギャンベゾンの上に鎖帷子をつけただけの物で騎士の着ている鎧には程遠いのだが、戦闘訓練を積んでいないフュンフには重いのは確かである。
鎖帷子の上に着た白いコートに巻いた刀帯には腕の長さほどもある剣が吊られ、右には短刀も収まっているが、これはそれほど重く感じない。ただ、山道を歩くときは鞘を握っていないと石や木に当たって不快な音を出したり蔓に引っかかったりする。
「リーナ」
「うん?」
「この一帯を最後の陣地にしようと思う」
「うん」
「本隊が到着する前に、阻止線を決めに前に出るけど、敵が近くなる。リーナは港町に…」
「フュン」
「ん?」
「フュンはリーナのこと好き?」
藪から棒とはこのことだ。だが別に隠すことでもない。
「ああ」
「だったらついて来い、俺の役に立てって言えばいいんだよ。リーナ、少しくらいの傷なら癒せるし、もし癒せないほど深手を負っちゃったら、一緒に神の国まで行ってあげる」
これほどまでに心の底が熱くなる言葉は聞いたことがない。
「リーナ、もしさ」
「うん」
「無事に戦いが終わったら、エリカ様に報告する」
「うん?」
「リーナと一緒になりたいって」
「一緒に?」
「うん、これから先、ずっと一緒」
「そっか、うん、一緒にいたいものね。じゃあ、勝って帰らないとね。頑張ろう」
リーナは満面の笑みを浮かべた。
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