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 イザベルは港町にオート麦のパンを売りにやってくる農民の馬車や籠を持った娘を止め、全てその場で買い上げて兵士たちに配分していた。 準備されていた食糧が足りないわけではなかったが、干し肉よりも出来るだけパンを食べさせてあげたいという思いによる。一昼夜共に歩いただけの相手ではあるが。 「できたらライ麦のパンを配りたいんだけど、ごめんなさいね」 イザベルがそう言うと、近くにいた髭の濃い男が違う言葉に通訳した。 男たちはしばらくポカンとした顔をしていたが、 「何をおっしゃいます。俺ら、パンを食べられればマシって生活だったんですぜ」 と誰かが言い、それを髭の男がイザベルに訳して聞かせた。 「干し肉の上にパンまでもらって文句言う奴はいませんがね」 「んだんだ」 「村でもらったパンの方が俺たちにはお上品すぎるってもんでさぁ」 「それよりイザベル様とここで別れるって方が俺っちにはなぁ」 「私にもエリカ様からいただいた使命があるからね、仕方ないのよ」 イザベルはふと、マスケットを持つ男の前で足を止めた。 「不足している物はない? 大丈夫?」 「へぇ、弾も火薬も黄鉄鉱も十分にいただきやした」 「あなたも頑張れば取り立てられるかもしれないからね」 「鉄砲撃つしか能がないんで、なかなか」 「エリカ様、いえ、王女殿下はどんな分野でも極めた人がお好きのようだから、この戦いで頑張れば、きっと声をかけてくださるわ」 「へぇ」 「失礼を」 振り向くと、先程まで兵士たちに食料を配っていた男の一人が抱えていた服と袋をイザベルに渡した。 「それでは」 男は何も説明せずに立ち去ったが、真新しいチュニックと金貨が詰まっている袋を何に使うのか説明を受ける必要もない。 「ちょっと着替えるわね」 イザベルは素早く泥のついたチュニックを脱ぎ捨てた。 周囲の視線が刺さったが、シュミーズを着ていて残念!といったところだろう。  新しいチュニックは青く染められた足首丈の長いもので、金持ちの庶民に化けるのには御誂え向きだった。
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