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「エリカ」
気配なく背後に忍び寄って声をかける男、エリカにはそれがディルクだとわかったので、振り返ることなく返事をした。
「なあに?」
「そろそろ出番になりそうか?」
「そうね」
この場合、ディルクの持つ狙撃の腕を戦闘中に使う事と戦闘後に銃兵隊を組織する事の両方を含んで「そうね」なのである。
「ちなみにどれくらいを想定している?」
「ん?」
「この戦いでの損害」
「正規軍は1割かな、別働隊については7割で済めば僥倖、村人については運次第」
「ずいぶん厳しいんだな」
「ええ。ところで、あなた偽公爵の顔は知っているわよね」
「もちろん」
「騎兵の襲撃が成功すれば包囲が完成したと理解するでしょう。交渉のために騎兵を引き戻せば港町方向が手薄になったと判断して脱出を図るに違いありません」
「あくまで戦って死んだ、それでいいんだな」
「ええ、弟を手にかけるより、その方が受け入れやすいでしょうから」
「わかった、それについてはお任せいただこう」
ディルクが部屋を退出すると待っていたかのようにエルフリーデが近づいてきた。
「エリカ様、村の中に治療所を開設したので床屋を呼びに行かせました」
「そう、ありがとう」
「館は引き続き負傷者の回復所として使用します」
「そうして頂戴。戦線に復帰できるようなら部隊の行李に戻して、そうでなければ物乞いができるまで動けるようになったら故郷に戻して」
「わかりました」
「物資は足りてる?」
「西方伯領地からの輸送は十分です。領主代行大したものですね」
「まあ、野盗の長も実力あってだからね」
「幼馴染でいらっしゃいますものね」
「そのせいもあって懐かれているのよ」
「今日も前線へお出でで?」
「うん、各指揮官が緊要な時期を読み間違えるとは思ってないけど、私がいることで判断に迷いがなくなれば戦いに集中できるでしょう。それにみんな喜んでくれるしね」
「またエリカ様を狙って来るかもしれませんのでお気をつけて」
「ありがとう。でもね、いくら気をつけても矢弾に当たるときは当たるわ。そのときはエルフリーデが送ってくれるって信じているから安心して前線へ出られるのよ」
そう言ってエルフリーデの手を握ると部屋の隅から視線を感じた。
目を向けるとハロルドとの話を終えたレオナルドがにっこり微笑んだ。
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