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 港町の娼館が今日は珍しく朝から賑わっている。 金払いのいい貴族の若様(ドラ息子)が娼館を借り切ったという噂が街の隅々まで行きわたるのに半日も待つ必要はなかった。(貴族が自分への忠誠を繋ぎ止めておくためにパーティーを開き、その場に来た者全てに施しをするというのは常識だ。ましてや場所が娼館となれば下賤と見なしている者にも施しをしないわけにはいかないだろう) あらゆる産物を扱う商人たちが娼館に殺到した。もちろん物を置ける場所に限りがあるから持ち込む商品全てを買い取られるわけではなく、買取量は娼館の主人が介入した。 それでも商人たちは言い値で買い取ってもらえるのでホクホク顔である。  少しでも多く金を稼ぐのが良い商人だという価値観なので、頭の弱い相手は騙してでも多くを巻き上げようとする。 「金3粒、そう、それ3つだ3つ」  また一人、港町の住人ならば上級銀貨1枚でも値切るだろう商品を高値で売りつけた商人がにやけた顔のまま娼館を後にした。 金の粒がぎっしりと入った箱から支払いをしている少女は見るからに売られて来た奴隷上がりで、こんな御し易そうな子供に支払いを任せるとは、よほど頭の弱い若様に違いないと口コミが広がって娼館前は異様な人集りとなった。 「あんた、若様ばっかり女遊びしてて、面白くないだろう」 身分の違う相手がやることに面白いも面白くもない。金の粒を握りしめた商人は軽口を叩いただけなのだがヨランダはみるみる顔を赤くしてにへらぁと笑った。周囲の商人は「言葉がまだ不自由なのだな」と解釈した。  娼婦は普段朝っぱらから客引きをしたりはしない。 しかし今日は高級娼婦に分類されている、いわゆる娼館で管理されている娼婦は全員トーマスの周辺に嫌な顔一つせずに詰めかけて来ていた。 「君の名は?」  トーマスは本物の姫様たちが着るには露出が多い、よく見ると擦り切れの多いドレスで貴族式の礼をする娼婦たちに一人一人声をかけた。 娼館は悪趣味なほど豪華に作られていたので、雇われ騎士が貴族を演出するには最適であった。 例えばホールには大きな会食用テーブルが据えられて厚いテーブルクロスが掛けられ、テーブルの奥側にのみ並べられた椅子にはそれぞれ長い布が掛けられている。
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