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「先生! お母さんの脈拍が!!」
「ご主人! ちょっと下がっていてください!」
朝陽はあたしと繋がっていた手を引き剥がされ、棒のように立ち尽くしていた。
「赤ちゃん先に出します!」
「よし、やろう。うん、大丈夫だ。ご主人、小さいけど元気な子ですよ」
あたしの腹部から、何かが取り出されている。
そしてそれをあたしはなぜか上から見下ろしている。
それは他人事のようで、まるで映画のワンシーンを観ているようでーー。
横たわるあたしの顔は青白い。
戻らなきゃと思うのに、浮いた身体が心地良くて、遠くから暖かい日差しが降り注ぐようにあたしを呼んでいる気がした。
誘惑に負けて行ってしまいそうになるーーその時。
「月子ー!! 頑張れ月子ー!!」
朝陽ーー
あたしの名を叫び続ける朝陽の悲痛な声。
戻らなきゃいけないーー
あたしの居場所ーー
突如、フニャー! フニャー! とまるで猫のような声が聞こえた。
それは次第に大きな声になり「ふ、ふぎゃー!! 」と濁音が多い泣き声へと変わる。
生命力の強い声。
その声に、あたしの心が今までにないくらいに激しく震えた。
心がブルブルと震え、あたしの眼から自然と涙が溢れ出す。
この感情は何なのだろう。
雷に打たれたような衝撃。
全身鳥肌が立ち、震えが止まらない。
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