225人が本棚に入れています
本棚に追加
この世で一番美しい声。
この世で一番神聖なるもの。
あたしは陽向を待っていた。
ずっとずっと待っていたんだ。
置いていけない。
帰らなきゃいけない。
心地いい場所は魅力的だけど、帰るべき場所は分かっている。
神様、あたしにはまだやるべきことがある。
朝陽と、陽向と、立ち向かう冒険が待っているからーー
始まる前に終わらせないで!
あたしは意識を自分の身体に集中させた。
身体に戻れ!
お願い! 戻って!
それからーーまた意識は失われ、世界は漆黒の闇に覆われた。
どれくらいの時間が経ったのか、自分がどうなったのか、生きているのか死んでいるのかさえ、分からない。
ただ、陽向のフニャフニャーと甲高い声がどこからか聴こえているような気がして、それがあたしを必死で呼んでいるように聴こえて、嬉しくて愛おしくて幸せな気持ちになった。
陽向の声をどこかで聴きながら、ぼんやりと視界が広がってくる。
目の前に、涙目で笑う朝陽の顔が映った。
ーーこれは夢?
現実だよ、と愛しい人は優しい表情で言った。
その人の頭の先から、後光のように陽射しが伸び、栗色の髪が赤く染まっていた。
そして、まるで春の陽気と錯覚するほどの暖かさがあたしの全身を包み込んでふわふわとした。
朝陽ーーあたし幸せだよ。
愛しい人が微笑んでいる。
あたしの居場所へ戻ってきたんだ。
そして、新しい冒険はここから始まるんだと、そう思った。
最初のコメントを投稿しよう!