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もちろん視線は合わせない。
いかにも僕には何も見えてません、君達の存在になんて気付いてません、的な雰囲気を醸し出すことに全霊を注ぐ。
僕の方は知らぬ存ぜぬの態度を通してはいるけれど、どこかで“おかしなモノ”がこちらを見ているらしく、視線をひしひしと感じているが。
そんな僕の気など知らず、両手を頭の後ろに組み、高山はため息混じりに嘯く。
「あーあ、美加子ちゃんと組みたかったなー。秋山のやつ、俺の美加子ちゃんに指一本でも触りやがったらタダじゃおかねー」
「及川さん?高山君って及川さんと付き合ってるの?」
「いや全然。話もしたことねーよ。でも可愛いじゃん?クラスで一番じゃね?いいよなー美加子ちゃん」
及川美加子。
確かに見た目は可愛いと思う。
アイドルのような顔立ちの、どこか大人びたクラスメイトの顔が目に浮かぶ。
でも僕はあまり彼女に興味がなく、何となくのイメージしか湧いてこない。
「そういうお前は誰とペアが良かったんだ?三島?片岡?佐倉?」
及川美加子とまではいかないものの、整った顔立ちのクラスメイトの名前ばかりが挙がってくることに苦笑する。
この人は本当に顔で女子を判別してるんだな。
「うーん、そうだなぁ、僕は……」
「っと、最後のチェックポイント着いたな。さっさと終わらせて戻ろうぜ」
他愛ない話の間に、いつの間にやら三年一組教室に着いていた。
何の躊躇もなく踏み込む高山に続き、敷居を跨ぐ僕。
不意に、窓の外に大きな桜の樹が見えた。
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