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 そして次の月、また行商の若者が訪れる日が近付いてくる。あの日、何が起こったのかさえ整理できないでいた琴だったが、由に触れられたくない。その一心で毎日を過ごしている。この一月誰にも話せなかった。そして、やがて訪れる若者にも打明けられなどしない。  そろそろ水も温みはじめ。山桜もちらほらと咲き始めた頃。あの橋を渡って若者はやって来る。 橋を見つめる琴に由が詰め寄った。 「まだ決心が付かないのか? もうお前は俺の女なのだ、両親もお前を嫁にすると約束した」 そう嘘をついた。
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